八章:約束の日
第13話
-10年後-
とうとう男との約束の日が来た。明るい顔で駆け出す青年。少年は10年という年月を経て、青年となっていた。カッカッカッカッ!小気味良いリズムで階段を駆け上る。
(僕はあれから、2度大検を受けました。大学にも受かりました。)
青年は輝いていた。この10年間、男に言われたとおり、ずっと前向きに行動し続けた結果だ。結果的に、全てがポジティブに働いていた。
青年は男と会った際、この充実をどう伝えんとするか、そんな喜びで一杯だった。男に対面するまで、とても待ちきれなかった。
だから、心の中でまだ見ぬ男に向かい、つい語りかけてしまう。
(大学では友達もできました。面接に何度も落ちたけど、就職もできました。今、恋もしています。今の僕があるのは全部あなたのおかげです。
あなたに見せたい、今の僕を。今日は僕のもう一つの誕生日です。あなたに見せたい。)
階段を上りきった青年は、勢い良く扉をあけた。あの男の待つ、屋上への扉だ。しかし、息をはずませ屋上へと辿り着いた青年を待っていたのは、あの男ではなかった。
一人の中年女性だ。青年がきょろきょろと見回していると、女がおずおずと歩み寄ってきた。
「あなたが新(アラタ)さんですか?」
青年に声を掛ける。怪訝そうに女を見つめ返す青年。
「え、あ、はい、そうですが・・・」
「篠崎の妻です。」
篠崎・・・あの男の姓だ。ますます怪訝に思い、戸惑った顔で疑問をなげかける青年。
「あの・・・おじさんは?」
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