七章:少年は生きる
第12話
大学を受験するには、定時制高校を卒業するか、大検を受ければ可能になることが分かった。
少年は動き始めていた。家族たちは、少年の豹変振りに驚きを隠せなかったが、良い兆候として手をとりあい喜びあった。
絶望と心の叫びを打ちつけた穴だらけの壁を覆い隠すように、家具の配置を変え、少年は部屋の模様替えをした。カーテンレールめいっぱいに開け放たれたカーテン。
半年ぶりに、少年の部屋に陽の光が差し込んだ。机の前にへばりつき、参考書を抱え、必死にノートに鉛筆を走らせる。
だけれど、いつも順調ということもなく、大検にもイキナリ失敗をした。大検だけじゃない、この手の失敗はいくつもあった。
少年は、そのつど、絶望しそうになった。そんな時は、決まって、あの屋上に行った。男は居なかったが、フェンス越しに遠い地上を見下ろし、男の言葉を脳裏に呼び起こした。
ケシ粒のように小さな人間が、右に左に動くのが見える。
≪10年経って、たとえお前が自殺しても、俺はお前の人生に喝采を送ってやる。≫
そうはつらつと笑った男の言葉。ちょっとだけヤニ臭かった男の上着。少年は唱えるように、自分に言い聞かせる。何度も、何度も・・・くりかえし。
「10年後、死ぬのは10年後だ・・・10年後までがんばれ!」
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