第10話

そう言うと、男はわざと勢い良く煙を吐き出した。二人でしばらく雲ひとつ無い空を見上げていた。




やがて、男はまだ少しだけ長いタバコの吸殻を缶の黒い穴に突っ込むと、何かを思い立ったように立ち上がる。




今までとは打って変わって明るい口調だ。逆光を浴び、少年を見下ろしながら言う。




「よし!お前に一ついいことを教えてやるよ。お前の人生にタイムリミットを作ってやろう。お前、年はいくつだ?」




「17歳」




「じゃあ、10年後の、27歳だ。」




 不思議そうに見上げる少年に、男は笑顔で手を差し伸べてくる。




「俺と約束しろ、これからの10年間、お前は前向きに生きてみろ。何も考えず、自分の出来ることを、ただガムシャラにやるんだ。




ハンパに自殺未遂なんかするな、とにかく何かをやれ、常に前向きに。嘘っこでも演技でもなんでもいいから、前向きにだ。




そうして、27歳の今日という日を迎えて、それでも死にたいなら、もう死んでいい。10年経って、たとえお前が自殺しても、俺はお前の人生に喝采を送ってやる。」




 そして、10年後に同じ時刻、同じ場所で落ち合う約束をして、二人は別れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る