五章:男の提案

第9話

「でも、僕、もう高校辞めちゃった・・・大学にも行けないし、きっとこんな僕は、大人に成っても、




なかなか会社で雇ってもらえないし、僕の人生はもうお終いだよ。僕は人生の落伍者なんだ。」




 少年の言葉に、ちょっとだけあきれた顔をしながら男は言う。




「子供の癖に、落伍者だなんて難しい言葉、よく知ってるな。」




「当たり前だよ、こんなの誰でも知ってることだよ。」




 少年は、しゃくり上げながらも憎まれ口を叩く。男は小さくため息をついた。




「人生80年、人間の寿命も随分延びたもんだ、こんな無間地獄が延々続くかと思うと、子供でなくったって、生きているのが嫌になることもあるだろうよ。」




 ぼんやりと宙を見つめ、誰に語るでもなくつぶやく男。少年はそれを黙って見つめる。




「お前、知ってた?この日本じゃ、1年間に3万人も自殺するんだってこと。」




 男の言葉に少年はクビを横に振る。それを見終えると、再び男は独り言に戻り、くゆる煙とともに、しばし感慨にふけりはじめた。




「長すぎるんだよなぁ・・・人生って。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る