30.どんな罵声でも

第30話

罵声ですらいとおしい。




洋次に真正面からぶつかってくる、これが自身の子であり、娘なのだ。ますます、両腕に力を込め我が子を抱擁する洋次。次第に弱まる真奈美の罵声。




徐々にと悪態が聞こえづらくなって来たかと思うと、ついに、真奈美は黙りこくってしまった。




顔をうつむけ、おとなしく洋次の腕の中でたたずんでいる。頭からつま先、制服、背広、下着、果ては靴の奥底の中敷きにまで2人の隅々に染み入る水。




噴水の脇をまばらに通る人々。




若いカップル、犬の散歩に立ち寄った娘、買い物帰りの主婦、老人たちが怪訝そうに噴水の中の二人を見つめる。周囲のひそひそ声を気にしてか、やがて、前髪から水をしたたらせながら口を開く娘。




「あのさ、オヤジ…あんま、このままで居ない方が…。周囲には親子だって分からないんだからさ、女子高生襲ってる、単なるおっさんサラリーマンにしか見えないかも」




「おっと、そいつはやばいや!」

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