第73話

笹山が分厚い靴底をぐりぐりと一志の頭頂に押し付けてくる。一志の頭部を偶然路上で見つけたぼろげなサッカーボールでも、もてあそぶかのよう足蹴にする。年の頃は十八~九頃か。スキンヘッドに限りなく近く短髪に丸めた頭に幾筋ものラインが入る。至る箇所に空けられたピアスの中でも、ことさら唇の脇のリングピアスが痛々しい。薄いあごひげ。鷹山・宇野田が抜けた後、今いる顔ぶれ連中を仕切るのはこの笹山という少年だ。

いや正確には、仕切りたがっているといった方が正解だ。鷹山・宇野田の姿が見当たらず少数鋭になると、途端にでしゃばり主軸で仕切ろうとはじめる。口先だけの小物で人望などありはしないのだが、他の連中もいちいち逆らうのが億劫なのか、とりあえず言うことを聞く。それがゆえ、今日ではますますつけあがってきている。

笹山は気が済むまで一志の頭を靴底でねじ踏むと、最後に一発軽く蹴り払った。勢いで半回りする一志の首。笹山の靴底がねじつけられていた部分の金髪が、土にまみれ、汚く絡み合っている。ますます無残な有様となった一志を見て、舌なめずりし、満足げに口端をゆがめる笹山。

「人間は土から養分を吸い上げられるか? なんちて、何かの実験みたいだな」

笹山の言葉。笹山が周囲の笑いを欲しているのが傍目に見て取れる。笹山はケツの穴の小さな男。小物の癖に、チラっとでも自分の思い通りに周囲が動かないとすぐにマジ切れ、からみだす。どうでもいいことで、いちいち紛争を巻き起こされるのは面倒なので、さほど面白くもないものの、とりあえず笹山のジョークに、他の連中も笑ってみせる。気をよくした笹山がさらに言葉を上乗せする。

「みんなでいっせーので、しょんべんする? こいつの頭めがけて。口に入れば100pt、耳に入れれば50pt、目に当てればボーナスポイント200ptだ! んで、最高得点は取ったヤツは最低得点のヤツになんでも命令できるってのはどうよ?」

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