第66話
(わかんねーよ、っくしょーどこだよぉ…)
涙を手の甲でぬぐいながら、ひたすら街中をあてどなくさまよい続ける裕也に、とある恋人達の会話が飛び込んできた。
「明日、追試だよー、あーやだやだ」
「もー、たっくん、ちゃんと勉強したぁ? 留年なんてやだよー。彼氏がダブりだなんて、めちゃくちゃカッコ悪いし!」
「俺、記憶力あんまよくないからさー、いくら勉強しても無理! ってぇか」
「赤点以上取るくらい、簡単じゃない!」
「いや。それが出来るくらいなら追試、受けなくっていいって」
すれ違うカップルの会話に裕也はふと何かに気づき、泣きはらした目で二人の姿を追う。
(…そうだ、そうだ、そうだ! なんでこんな簡単なことに気付かなかったんだろう!)
裕也は辺りを見回しバス停を探す、しかしあてどなく歩いていたセイか、思うように見つからぬ。また見つかったとしても、すぐにはバスは来ぬだろう。裕也は二~三度目をこすり、今度は放置された自転車を見つけた。そうして驚く通行人をよそに、やおら手に当たるレンガをつかみ取り、カギをたたき壊す。一志の言ったとおり、あっという間に自転車のカギは開放される。唖然とする通行人をを尻目に、急いでサドルに飛び乗り自転車を走らせ始める。一志の言葉。
『ああ、俺あんま記憶力よくないから、強制的におふくろに書かされてるっていうか。頼まれてもすーぐ忘れちゃうっていうか』
裕也は自転車を立ちこぎし、あらん限りに飛ばし始める。一志の家に向かう。
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