第64話

一方歯をむき出してメンチを切る鷹山、明らかに先ほどとは違う空気だ。

「一志よぉ、そらぁ俺に対するイヤがらせかぁ? ナニナニ? チームのヤボウを邪魔してくれちゃってんの?」

他のギャング連中はみな固唾を飲んで、二人の動向を見守っている。中には息すら止めている者もいた。視線だけを動かし二人の状況を見守る。それだけヤバげな空気があたり一面に充満している。巧妙に張り巡らされた蜘蛛の巣のように、少しでも鷹山の琴線に触れると、とばっちりをくらいかねない。それをみなは重々承知していた。そう、長い経験から。

「おいおいおい、抗争の足はひっぱる。襲撃は掛けられねぇ! バット一つろくすっぽ振り回せられねぇ! スタンガンも使えねぇ! こりゃ最低なチームメイトだなぁ! お前、俺らのチームに何かこれまで貢献してきたっけ?」

鷹山の腹から出るよく通る声にひるみそうになるも、声のふるえを押し切りつつ、はっきりと言いきる一志。そして懇願する。

「最低だから抜けさせてください。いいでしょう? 俺なんて必要ないでしょう? このチームに」

一志の言葉に軽く身を乗り出すと、両目を細めあからさまに、にっこりと微笑む鷹山。勿論トビキリのつくり笑顔だ。

「抜けさせてや・ん・ね」

鷹山の言葉にやるせなさを覚える一志。言葉を無くす。

「だってムカつくから、ぎゃは!」

一志をおちょくるのが愉快でたまらないといった感じで、鷹山は歯ぐきをむき出しにして笑う。ヤニのこびり付いた歯は黄色く変色し、ガタガタの歯並びの中、差し歯の右前歯一本だけがいやに白く、丹精に整っており不自然だ。

なすすべなく立ち尽くす一志。鷹山はやおら立ち上がり、片腕を掲げ、チーム連中の視線を一気にかき集めた。そして野獣のような声で吼える。

「さぁ、新ルールのおめみえだ、てめぇらも腹すえてドタマに刷り込めよ! 俺らのチームが国内最強になるためのルールだ。ビッグになりてぇだろ!」

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