第57話

そして軽く舌打ちする。本来ならば、内容の過激さに、もっとずっと大騒ぎするであろう裕也も一志の空気に飲まれ、息をひそめている。再び押し黙る一志。しばしの息苦しい沈黙の時、それは随分と長い時刻のように思えた。やがて、つぶやくように一志。

「…俺みたいなクズは、ほんと死んじゃった方がいいんだろうけど…ビョーキだし、ギャングだし、軽くジャンキー入ってんし…」

そこまで言うと、裕也に訴えるような、だけどどこか宙を舞うような視線で一志が言う。

「けど俺、一人っ子じゃん。親父も死んでんじゃん。こんな俺でも生きてた方がおふくろにはいいのかな? って。おふくろのメシとか、洗濯とか、誰が世話すんのかって感じだよな」

そう噴出し笑う一志。

「あの人、自分じゃ何にもできねーし! やっぱ、死ねないっしょーー!!!」

裕也は静かにたたずみ、一志が語るに任せる。やおら立ち上がる一志。うつむいた視線を上げ天を見上げる。そうしてあっけらかんと叫ぶ。

「決めた! 俺、チーム抜けるわ…」

そうして吹っ切れたような顔で裕也を見下ろす。

「だって俺、元々ケンカなんか嫌いだし。だってこうやって俺らみたく、ふつーに仲良くやってる方が全然楽しいじゃん? 縄張り争いなんてアホらしいよ」

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