第54話
バンダナを脱ぎ捨て、サングラスを脱ぎ捨て、一志がうめく。
「お前はそうやって、いつもやられっぱなしで…」
責めるような一志の眼差し。裕也を心底うらめしそうに睨みつける。
「違う!」
裕也も顔を覆い隠す何もかもを脱ぎ捨て叫ぶ。一志も叫ぶ。
「何が違うんだ!」
「違う! 違うんだ!」
納得いかない面持ちの一志に裕也が続く言葉を叫ぶ。
「もう、いいんだ、彼女は悪くないんだ! 悪いのはゼンブ僕なんだ! 彼女はただ僕と目が合っただけなんだ…」
そう草むらで吐き出しながら、フラッシュバックする裕也の過去。
「好きだったんだ、もう、ずっと前から…」
やがて泣き崩れる裕也。
「明るくって、かわいくって、くったくなくって。僕みたいな底辺の奴とはぜんぜん違って。高嶺の花で…スゴク輝いてた…」
教室の隅でそれと悟られぬよう、そっと奈央を見つめる裕也。それに気づくこともなく、くったくもなく友達ときゃあきゃあはしゃぎ合う奈央。中学時代、そして高校時代、彼女の周りはいつも友人たちであふれかえっている。
「眩しかった…だけど、彼女は僕がいつものように裏庭に呼び出されて、ボコられているところにタイミング悪く通りかかって、そうしてボコられている僕を見て、まるで変なものを見るような、異生物を見るような、見てはならないものを見たような、怯えたような、それから軽蔑したような眼差しで僕を見下ろして、そうして彼女はそのまま僕の存在を無視した。全てを何事も無かったかのように、スルーしたんだ」
裕也から目をそらす奈央。凍りつく裕也の顔。裕也の意識が次第に薄れてゆく。脳裏はもやがかり、やがて無音。それでも集団にいいようにボコられ続ける制服姿の裕也。
「不良どもにボコられるよりも、そうやって菅原に何事もなかったみたく、目をそらされた方がよっぽどキツかった。その三日後から、僕は二度と学校に行かなくなった。こんな情けない僕を、彼女にもうこれ以上見られたくなかったから。消えてしまいたかった…」
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