第51話

そうして凄みを帯びた声で言う。

「おいアマぁ! よくも俺のダチをやってくれたよなぁ! よもやよもや忘れたとは言わせねぇぜ! 可愛いツラして大したタマだよなぁ?」

喉に詰められたスカーフが、奈央の嗚咽と涙を誘う。一志の怒号におびえ、両目をつむる奈央。その瞳の端からは涙が伝う。

「なに、目ぇつむってんだ、あけろ! こっちは落とし前つけてんだ!」

そう叫んで胸倉をつかむ一志。おびえきった両目で涙を流しつつも、奈央は自らに馬乗る少年を見上げる。奈央をより怖がらせるための、一志の迫真の演技。より残虐さを帯びるよう意図的に演出している。しかしとても演技とは思えぬほどの鋭い怒号。

「てめぇのセイで、俺のダチがすっかり困っちゃってんのよ。てめぇのそのご自慢のツラを切りつけるのも面白れーけど、もっとトビキリ愉快なことをしてやんよ! イマスグ死にたくなるようなことをな!」

そう吐き捨てると、一志は奈央の上着の両襟をわしづかむ両腕に一気に力を込める。その腕を無理やりこじ開き、ブレザーをボタンごと引き裂く。続き、スカートからブラウスを引き出すと、再び間髪おかずに引き裂く。ブツブツと低い音がして、はじけ飛ぶボタン。更にはナイフを奈央のキャミソールの下方に突っ込み、片手で布を押さえつけると思い切り引き上げる。伸び上がる布がやがて限界に達し、布の切り裂ける派手な音がする。

と同時に奈央がつんざく声で叫ぶ。しかしその悲鳴は、口に突っ込まれたスカーフでもって完全に消音される。ただ、かすかなうめき声が辺りに響き渡るだけだ。奈央は頭の奥で何度も悲鳴をあげる。しかしその声は誰にも届かない。ただ顔を振り、おびえ泣くだけだ。

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