第50話
「ひっ、ひっ…」
恐怖のあまり青ざめ、呼気を早める奈央。それでも無言で必死に抵抗をする。一志はそんな奈央のヤワ腕をますますねじ上げ、そうして後ろから荒っぽく押し出す。
「おら、こいや!」
そうやって、人けのない草むらの奥にまで連れ込むと、突き飛ばす。倒れこんだ奈央が身動きが取れぬよう、すぐさま馬乗りする一志。そうしてまたがったまま裕也を促す。
「おい、ぼやぼやしてんじゃねぇ! 口をふさげ!」
裕也は散々たる未来を予期させる景色の中、ただただ呆然と立ち尽くしている。土壇場になってしり込みしたのか? ちっとも思うように動かぬ裕也に、一志は苛立ち舌打ちする。しかしすぐに奈央の制服のスカーフを抜き取ると、手早く丸め、口の奥へと無理やりねじ込んだ。
「おい、こいつの両腕を押さえろ! 早く!」
そうして再び裕也に指示をする。今度は有無を言わせない。言われるがまま、裕也はおぼつかない様子で奈央の両腕を押さえる。そこまでの一連の作業を手早く終え、一志はようやく一息をつく。そうして奈央を見下ろして笑う。
「さぁてと、これで下準備ができました…っと」
叫ぶことも、助けを呼ぶこともままならず、ただただうめいている奈央のアゴ先をつかむと、一志は奈央の鼻先でサバイバルナイフを見せびらかせ、ゆっくりとそれと分かるよう右頬に寄せる。そうしてナイフでぴたぴたと頬をたたき、わざと意地悪く笑ってみせる。
「いいザマだな…」
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