第42話

裕也は言葉をかけかねていた。ますますすがるように一志。

「俺もう、我慢の限界っていうか。報復してやろうと思うんだ! だってやらなきゃ、俺、いつか殺されるかも? てか、もう死んだも同然だよ!」

裕也の上着をわしづかみ、硬く握り締める。震える一志の両手。くやしそうに唇をかみ締めうつむく。

「でも、俺一人じゃできないっていうか。勝てないっていうか。だからさ、お前さ、協力してくんない? 頼むよ! 頼みます!!」

いきなり背後に下がると、一志は裕也に向かい土下座する。絨毯に額をこすりつけ、ひたすらな土下座。

「頼みます! お願いします! 俺を助けてください!!」

とてつもない話に裕也はめまいを覚える。一志が和製カラーギャングの一員であったということだけでも衝撃なのに、まさかその連中にたった二人で報復に立ち向かうなど。そして目の前に展開される一志の決死の土下座。どこか夢うつつのような気がしてならなかった。どこか現実のものとは思えなかった。しかし裕也は気を確かに持ち、やがて口を開く。とはいえこの返事すら、やはりどこか夢うつつだったかもしれない。

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