第41話
そこまで言い、一志はすぐさま否定した。
「いや、元からああいう奴だったんだよ、あいつは。それ以来、俺のことが何かと気に食わないみたいで、焼き入れてくんだ。あからさまにパシるし。殴るし蹴るし」
唇をかみ締めこぶしを振るわせる一志。
「トップがああだから他の連中にもボコられたり、けど抜けられないし。いいサンドバッグだよ。いつもはそんな目立たないようボコるんだけど。今日は特に虫の居所が悪かったセイか、このザマだよ」
そう言って、首のやけどを裕也に見せる。そして自嘲。
「家にまんま帰るとおふくろ心配するし、お前んとこ来ちゃった…」
裕也にはただ一志の話を聞いてやることしか出来ない。そうしてただ無言でうなずきながら一志の言葉のひとつひとつを受け止める。一志の話を聞くうち、一志が母親に隠れて通院していることも知った。また高値で密売している薬は、母親にナイショで通院するための金だとも。
「こんな俺でも、死んだらおふくろ悲しむじゃん! 子供俺一人だし。それに俺のためにおふくろ、必死で働いてるわけだし」
どこか自らの運命に絶望を覚えている一志の顔。一志は両腕をつき、搾り出すように言う。
「…まっとうに育ちたかった…あんな風に偏見もたれる親だからこそ、余計に俺まっとうに育ちたかった…なのに、なんでこんなんなっちゃったんだろ…」
フイに裕也を見上げ、そうしてすがりつくように言う。震える両腕で、裕也のシャツを激しくつかみ。
「俺がさ、病気になったの、絶対アイツのセイだと思う。っていうか俺の人生めちゃくちゃ。頭オカしくなって、いつも不安で怖くて、酒におぼれて、合法ジャンキーなんて言われて…」
そこまで一気にまくし立てると一志は、うつむいてしまう。そして裕也のシャツをつかんだままうめく。
「あんな奴に出会うくらいなら、さみしくっても、一人で居た方がマシだったかもって思う」
嗚咽にまみれる一志。泣いている。初めて見た一志の泣き姿。
「俺の人生…めちゃくちゃジャン…」
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