第37話

それだけ言うと、一志を解放し鷹山は立ち上がる。その場に取り残され絶望的な顔をする一志をスルーして鷹山は新人を促しタバコをくわえる。タバコを目いっぱい吸いいあげ、鷹山が言う。

「おっと、ひとつ言い忘れた。だがな、おめぇはいい素質を持っている。おめぇの女をひっつかまえる腕は天下一品だ。チーム内におめぇの右に出る奴は一人もいねぇ。ついでにお前のマスクもだ」

そうして再び鷹山はしゃがみ込むと一志の顔面に紫煙を目いっぱい吹き付け、笑う。

「失うには惜しい、い~人材だ。だから、ここまで待ってやってんだ。早く学べ。そして変われ。いいか、次は殴れ。目ぇつむってでもいい、バットで思いっきり殴れ、思い切りだ」

「けどっ!」

一志の声に、一瞬にして鷹山の目がぎらつくと、鷹山は一志の頭をわしづかんでタバコの火先を一志の首筋にネジ当てる。

「ぎゃ!」

一志の悲鳴とともに、皮膚の焼け焦げる臭いがする。

「四の五の言ってんじゃねぇぇー、てめーは、ギャングだろーがぁぁぁぁあぁ!」

鷹山は一志の首筋でねじけしたタバコを地面に投げ捨てると、ギャングたちをあごでしゃくり促す。

「やれ! いつもどおりツラははずしてな」

数名のギャングに取り囲まれ、なれた手つきで袋にされ始める一志。あたり一帯に響き渡る殴打音。その様子を眺めるでもなく、鷹山は空を見上げ、のんびりとタバコをふかしている。そうしてやけにあっけらかんとした口ぶりで、一志にいくつもの言葉を放る。

「いてーだろう、なぁ、一志よぉ。なぁ。全部てめーのセイだ。てめぇが、チキンだからだ。早くチキンを卒業しろ。なぁ」

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