第33話

ちっとも悪びれない裕也、皿を出す。

「しょーがないねぇ、裕也くんは」

再びまんざらでもない顔で裕也のチャーハンを盛りつけにキッチンに向かう一志。チャーハンが出てくるまでの暇つぶしの時、裕也がすぐ脇のコルクボードを見やる。

「前々から気になってたんだけど。ここのボードにはっつけてあるメモの山はなに? 全部一志の字だよね?」

そう言いながら裕也はコルクボードに身を寄せると、メモを数枚めくりあげる。

「にしては、なんか内容が…ケッコー、変! …もやし?」

裕也の視線の先にあるメモには、もやしの特売日が書いてある。

「ワタクシ、主夫ですから」

一志がチャーハン皿をウエイターのよう片手で持って参上する。

「裕也くん、もやしの特売日をバカにしちゃいけないよ! 一袋十円が主夫にはどんだけありがたいか。主夫は主夫でも、婦人の『ふ』じゃないよ。夫の『ふ』ですから。でもその実、息子ですから。稼ぎが頭はうちのカーチャンってか?」

一志の一人ぼけをスルーして裕也が言う。

「にしては、メモの数多いねぇ!」

「ああ、俺あんま記憶力よくないから、強制的におふくろに書かされてるっていうか。頼まれてもすーぐ忘れちゃうっていうか。でも、こうやって紙に書いて貼るようになって、とりあえず度忘れはなくなったね」

「ふむふむ」

「味をしめ、こんなのまでメモってたりして」

そう言って、一枚のメモを裕也にはぐって見せる。なんと、裕也が遊びに来る日時までメモしている。本日の日付、裕也参上の時刻。

「僕が遊びに来る日くらい覚えててよ! 一志、ちょっと失礼すぎ! しかもそれを当人に見せる」

「忘れちゃうよりマシでしょ! チャーハンの仕込みもあるから。裕也くんが本日うまい焼豚チャーハンを食べられるのはこのコルクボードのおかげ。ま、手帳みたいなもんだよ」

「もーなら、いっそのこと手帳持てばいいじゃん。場所取らないし」

「手帳だとなくしちゃうから。ここに置いとくとなくならない。忘れない」

そう言って笑いながら立てかけたコルクボードに両手を添える一志。

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