1-6.いつもの一志
第32話
パラパラに炒められた狐色の米粒に角切りチャーシュー。ネギに炒り卵がリズミカルに宙を舞う。中華なべのフチに細く流し込まれる醤油。醤油が泡立ち高温で焦げ付く音と香ばしい匂い、米の隙間からむっと沸き立つ湯気。
「ほい」
ここは一志のアパート。ちょっと年季の入った住処。紺色のエプロンをつけた一志が炒めたてのチャーハンを盛りつけた皿を裕也の前に置く。立ち上る湯気。黒いちゃぶ台の前ですっかり待ちわびていた裕也が叫ぶ。
「待ってましたー!」
裕也は第一声の後、すぐさま、ごそりスプーンでチャーハンをすくい上げ、パクリくわえ込む。
「うまーい! やっぱ一志のチャーハンさいっこー!」
「おだてても何も出てこないよ」
口でそう言いながらも、まんざらでもなさげな一志、キッチンで自らのチャーハンも皿に盛る。
「なんか、うちのオヤが作るチャーハンより断然うまいし!」
感激顔の裕也が叫ぶ。エプロンを脱いだ一志がチャーハン皿を手にし裕也の前に腰下ろす。
「米をチャーハン専用に硬めに炊いてるからね。ここまでやるのはかなりの料理通と、一志サマだけだと自負しています。仕上げの醤油の回しがけがミソ!」
一志のチャーハン解説が耳に届いているのかいないのか、裕也はひたすらチャーハンをかっ込んでいる。一志は満足げに裕也を見、自らもチャーハンをかっ込む、そして口開く。
「つーか、表向きプーやってると、家事くらいできないと、肩身狭くて狭くて。というか、おふくろが家事全般ダメで本当によかったー! ブイ!」
スプーン片手に、今更のピースサインの一志。
「あの人、洗濯機の回し方もロクに知らないし。こないだなんか、真っ赤な下着と白いもん一緒に洗って、シャツやらタオルがほんのり桜色で全滅。もー、中途半端に家事になんか目覚めなくっていいから! って感じ」
家事にこなれた主婦のように管をまく一志。脇のグラスの麦茶をがぶり飲む。裕也の皿、チャーハンの最後のひとすくい。一志のチャーハンを綺麗にたいらげた裕也がおかわりを催促するかのよう皿を出す。
「肩身が狭いなら、裏家業なんかやめて、普通にバイト探せばいいのに。はい、おかわり!」
口端をコケティッシュに曲げながら、一志。スプーンを持つ手が止まり、顎を突き出す。
「俺にお説教しながら、なぁに、おかわりなの? いい度胸だねぇ。裕也くん」
「一志のチャーハンさいっこー! 世界一うまいかも! はい!」
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