第30話

「オレ、めぐみちゃんのこといっとー可愛いって思ってたんだ」

目の前の少女を笑顔で見返す一志。さきほど引っ掛けたばかりの女の子と遠いベンチでツーショットで話し込んでいる。女の子をあてがわれなかった他の赤い連中は、もうとっくにつるんで立ち去っていた。少女は肩までのストレートヘアで軽く童顔が入っている。髪を茶色いヘアカラーで染め上げているものの、目は奥二重で心持ち地味な印象を与える。

一志の言葉を受け、頬を少し赤らめながら、めぐみが言う。

「えーうそー! ノリ子の方がゼンゼン美人でしょ? たいてい男はみんなノリ子がいいって言うよ」

軽くうなづくと腕組み小首をかしげる一志。

「あーノリ子ちゃんね。まーきれいだけど、あれはつんけんした雰囲気で男を寄せ付けない感じ、実はそーでもないんだ。むしろ、男が一番すきなのは、めぐちゃんみたいな子だよ。オレが一番いい子選んじゃった。役得だね。声掛けたのオレだし」

そう言って、一志は軽く身を乗り出すと、めぐみの頭に手をのせ、なでなでする。めぐみがてれながら一志を見上げる。

「えへへ、私も役得。だって一志くんカッコイイし」

「うれしいこと言ってくれるねぇ」

そこまで言い終えると、一志はフイに辺りを見回しつぶやく。

「みんないなくなっちゃたね」

「うん」

めぐみの表情をチラリ盗み見ながら

「ホテルに行ったんじゃないかな?」

とポツリ一志。ホテルという単語を警戒し、ふいにうつむくめぐみ。

「あ、でも私…」

それを見て、一志はかすかに唇で微笑む。

「好きモノとそうでない女の子はにおいで分かる」

そう言うと、一志はめぐみの髪を右手でかき上げると、あらわにした首筋に鼻先を寄せ、くん! とにおいをかぐ。そのまま一志はめぐみの首筋に鼻先を寄せたまま、しばし、じっとしている。一志の吐息が薄くあたる。めぐみの手がじっとりと汗ばんでくる。

「ここがフェロモンの一番出る場所。めぐみちゃんはどっちだろ」

そうささやく一志の熱い吐息が言葉を吐き出すままにめぐみの首筋に当たり、めぐみの頬がみるみる上気してくる。めぐみのひざの上に抱えたかばんの柄を持つ両手に力が込もる。一志はめぐみの首筋に熱を帯びた吐息を当てたまま、フイに舌腹で大きくべろりなめ上げる。

「気持ちいいでしょ?」

そう言って、一志は元の位置に体を戻すと、めぐみに向かい少しだけ色を帯びた瞳で一志は微笑む。フイに訪れた快感に大きく動揺し、首筋を押さえているめぐみをよそに、先ほどとは一転、一志はあっけらかんとした表情で肩をすくめ、おちゃらけおどけてみせる。

「なーんちゃって、冗談。別に男と女が二人きりになったからって絶対ホテル行かなきゃなんないわけでもないし。幹部連中は幹部連中で好きにやってるだけだし。オレとめぐみちゃんはここでお話でもしとく? 恋の相談でも、なーんでものるよ」

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