第29話

一志が再び辺りをきょろきょろ見回していると、ちらちらと一志の様子を伺う二人の女の子に突き当たる。一志の遠く背後で、二人は顔を見合わせ、こそこそ話をしている。

「ねね、あの子イケてない?」

「わ、ホントかっこいい」

一志の耳に届くか届かないかのひそひそ声。一志のルックスを値踏みする声が遠巻きに聞こえてくる。その声をたどり振りかえる一志。

視線を遠くぐるりめぐらす一志と視線をバチっと鉢合わせ、女の子が小声できゃあきゃあ言ってるのを見て、すぐに表情を整え笑う一志。そうして、間髪よらず歩みよってゆく。

「お!もう見つけたみたい」

「けっこーまぶい」

「いけんのか?あれはさすがに難しそうだぞ」

「おれは右のほうが好き」

遠くで何かを話しているがこちらに声まではとどない。

ただ、女の子のはしゃぐ笑い声が小さく聞こえる。一志がこちらを指差して、女の子たちを促しているのが見える。

その様子を見ながら一人がつぶやく

「もう話がつきはじめたみたいだぞ」

「早ぇ!」

「なんだあの速さ、パンサーか」

そうやって他のギャングが遠くで内輪話をしている間にも、息を切らし一志が舞い戻ってきた。そうして鷹山の元へ駆けつけ報告する。

「あの、あと二人つったんですけど。もう一人あとから、待ち合わせに来るみたいで。追加三人で、計六人になっちゃったんですが。どうしましょうか? 一人余っちゃいますね」

「じゃあ、お前が余ったのを取ればいい。お前の手柄だ」

「え? いいんすか? や、でも、そーみんな特に好みじゃないし…」

と首をかしげながら一志。一志をうわさしていたギャングたちをちら見する。

(くれくれ! こっちによこせ!)

とでも言いたげなその他のギャングたちの顔。目を輝かせ、えさに飢えたコイのようにクチパクとジェスチャーでアピールする。しかし、すいっと一志は鷹山を向き。

「じゃあ、お言葉に甘えまして、ご相伴に。幹部の皆さんで、先に好きな子を選んでください。オレは残りの子でいいですから」

と一礼する。がっくりギャング一同。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る