第26話
一志のフイの提案に裕也はこっけいなまでに小刻みに激しく首をふり、必死に拒絶する。ただ見てるのと、やるのとでは大違いとでも言いたげなその態度。
「イザって時には、助かるよ」
と一志。
「イザって、ないない!」
慌ての裕也。
常日頃あまりハメをはずしたこともない裕也にとっては、自転車の窃盗など、とんでもないことなのだ。それはこれまでの付き合いの中で、一志も重々承知の上だった。だが、あんまり必死に拒絶されると、むしろ何がなんでもやらせたくなるのが人間のサガ。一志がすっとぼけた顔で言う。
「え? 俺にだけ手を汚させる気? おまえだけクリーンのまま、俺のこじあけたチャリに乗るの? えーーーーなーんか、裏切られたかーんじーーー! 男の友情ってこんなんだっけーーーー?」
ややもすると本気とも取れぬ、毎度大げさな言い草だが。手痛い一志の突っ込みに結局ときふせられ、チャリの窃盗の練習をさせられる裕也。まんまと一志の策に乗せられてゆく。
「こう?」
「違う違う、もっとこねくり回して」
空手で手本を見せる一志。一志の手本をみようみまねでやるも、やはり初めての体験、手つきがどうにもおぼつかない。
「こう?」
「もっと角度かえて」
裕也の手元を覗き込み、一志が熱心に指導する。
「うーん、できないよぉ」
針金を片手にお手上げ状態で悲鳴をあげる裕也。その様子を見、一志。
「まぁ、一番手っ取り早いのは、ちょっとデカメの石でカギをぶっこわしちゃうってことだけどね。カギ空け職人としては、素人にはできないワザを披露したいわけよ」
つい先ほどまでの熱心さはどこへやら、ついに音をあげた裕也にむかって、一志はにやにやと笑う。
「なんだよー! ただ単に自慢してるだけかよー!」
「バレた?」
「んだよー!」
と脱力気味の裕也。
「おい、お前らそこで何をしている!」
突如二人の遠く背後から見知らぬ大人の声がする。
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