第17話

そこまで言い放ち薬を毎日まともに飲んでいる裕也を思い「…あ、ごめん」と一志。

「いや、いいよ」

優しい相槌に笑い損ねて、口端をゆがめる一志。裕也はまだ缶コーヒーに手をつけられない。ただ一志の言葉にその場に立ち尽くしているだけだ。思いの他真摯な一志の言葉が胸に痛い。一志は続ける。

「俺が売る薬を欲しがる奴らも、そんなところあんじゃないかな? って思う。自分は騙せなくっても、世間はごまかせる。周囲はごまかせる。自分は薬が必要だし、飲み続けなければ生きれないけど、病院に痕跡は残しません。社会には知らせません、みたいな」

そう言いながら一志はペットボトルを傾け雑草にジョウロで水をやるように炭酸飲料を掛け始める。手持ち無沙汰に。ギョっとする裕也。一志は言葉を終え、口をつぐんだ後も缶を傾け続ける。

炭酸のはじける音は背後をすり抜ける車のエンジン音にかき消される。ただ液体が地を打つ音だけが響く。青々しかった雑草の葉が激しい滝に打たれたよううなだれている。目を細め、うなだれた雑草を見下ろす一志。

「だから、自分はいたって普通ですよ。あなた方となんら変わりないんですよって、フリをしたいんじゃないかな?」

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