第13話

一志は本当に悪びれない。これから始めるここでの作業は、裕也がよく見かける一志の薬の振り分け作業の「その後」だったらしい。裕也が薬の売買の仕込み現場を目の当たりにするのはこれが初めてだった。悪い現場を実際目の当たりにすることで、一気に身の締まる思いのする裕也。

「一志!」

ここを通り過ぎればますます悪いことになると思うと、思わず声も大きくなる。しかし一志は動じない。

「お前がここで叫べばどうなると思う? 俺、捕まる。お前も捕まる」

そう言って裕也を指差す。

「え?」

「なぜって、俺がこいつも共犯ですって警察でゲロっちゃうから」

一志はにっこりと笑う。

「は? 共犯じゃないよ」

「だって振り分けの段階で止めないんだもん、共犯っしょー!」

腕組み、背もたれにふんぞり返る一志。余裕の態度だ。

「支離滅裂だよ!」

「支離滅裂はそううつの証~♪ ららら~♪」

焦る裕也を尻目に、一志がまたも変な歌を作り天井を見上げ両手をかかげ軽踊りする。一志は、躁の状態と欝の状態が交錯する躁うつ病だ。己の病まで笑いのネタにする男。一方裕也はストレートなうつ病。二つの病は似て非なる病だったりする。軽踊りに飽きた一志が両手を半端にかざしたまま裕也を振り向きこう付け加える。

「前科ついちゃうと、やばいよね。ただでさえ人生ドロップアウトしてんのに。もー太宰治の人間失格。生まれてきてごめんなさいだよ」

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