第8話

裕也はブルーのポーチから取り出した薬をセルから一粒抜き出し、水道水で飲もうとするも、

「ほらほら、また素直に飲んでるぅ!」

とすぐ脇に一志の顔を寄せられ、ぎょっとする。薄目で一志が実につまんなさそうな顔でぼやく。

「せーっかく、オレが素敵な薬の飲み方を教えてあげたのに、裕也ときたらちっともやらないんだもの」

そう言うと鼻歌を歌いながら、一志は流しの足元の扉をあけ、ごそごそと何かを探り出す。

「じゃーん!」

やがて一志が嬉しそうに取り出したのは、安い焼酎の紙パック。スーパーなどで常温で並べられている代物だ。それを流しに伏せられていたマグカップになみなみ注ぎはじめる。それを見つめながら眉間にシワを寄せる裕也が口を尖らせながら言う。

「やだよ、薬飲む意味ないじゃん。医者は薬と酒は合わせたら絶対だめって言ってたよ。効きめの調整全然とれないし、肝臓にダブルで来るし」

「んなことねーよ! ちゃんと効いてるし。も一回、教えてやるよ。な! これを半かけ飲んで…」

そう言って一志は、Gパンの後ろポケットから取り出してきた錠剤を銀ケースから抜き、前歯で器用に割ってみせる。

そうして「見て」と言わんばかりに舌の上の半欠けの錠剤を裕也に披露し、マグカップの焼酎を飲み干し始めた。そうして全てを飲みきって一言。

「くーきくぅ! そいでもって、ちょいとキツメのアルコールを入れる」

と言うと、満足そうに歯を見せ笑う一志。

「これでほど良い効き目。んでもって、残った薬はキレイキレイに元通りにして、こいつは次に飲む分」

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