第28話

椎野とのキスはないことは分かった。抱き寄せられることもないと分かった。当然、セックスなどないということも分かった。美鈴は椎野の子供として、そのまま家にいることにした。そうして、椎野が望んだように、恋人をつくるもいいと思った。


これにて、美鈴の甘美な性欲は終わった。


美鈴はどうやったら、政治家に成れるんだろう? と岡部涼花を想った。美鈴は父、椎野が仕事で出かけていることを幸いに、椎野の書斎に入り、岡部涼花のビデオを見る。ミルキーKissだ。


「お母さんはぁ! お父さんを魅了したけど、美鈴も負けてないよ」


ビデオを差し替える。


「お母さんわぁ! 交通事故の後もくじけなかったけど、けど」


そこでも反抗的な態度を取ろうとしたが、美鈴は、到底口に出せなかった。私は両足があるけど、お母さんはないね、とはどうしても口に出せなかった。美鈴は次なるビデオを回す。


岡部涼花は政治家でマイクパフォーマンスをしている。


「政治家かぁ! 昇り過ぎてて、勝てそうもないよ。美鈴ではね。でも負けないから!」


岡部涼花は気高く美しい。


「お父さんに、最高の愛娘だと思われるように、お母さんもすごかったけど、美鈴がもっとすごかったね! って言われるようにする」


そう叫んで美鈴は、ビデオを切った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る