第11話

「バーカ」




笑顔と一変、突然皮肉るような顔つきで早苗は言い放つ。




「むっ。お前なぁ!」




清貴のお怒りはごもっとも。そう叫ぼうとして、清貴はふと周囲の視線がこちらに集中していることに気が付いた。




早苗も気が付いたようである。二人は周囲に笑ってごまかすと、そそくさとその場を立ち去った。そうして、今度は周囲に誰もいないことを確認して、声を押し殺して会話する。




「ひとまず休戦よ」




「ああ、そうした方が良さそうだな。だって、どう見たっておかしいもんな」




「身を寄り添って、大喧嘩してたんじゃあね。確かに不気味だわ」




二人は顔を見合わせて苦笑した。




「なんか、こう、久しぶりに笑ったな」




「ホント。なんだか久しぶりね」




清貴は早苗の肩に引っ付いた手のひらにちょっとだけ力を込めて言う。




「せめて、こうして引っ付いている間だけでも、楽しくやろう」




「そうね」




そう言って、二人は今度は本当の笑顔で顔を見合わせた。

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