第10話

「あの、藪医者。二度と行ってやるもんですか」




道路に転がる空き缶に当たる早苗。




「きっと、あの藪医者、自分が遊びに行きたいから、治療しなかったのよ」




「まぁ、連休だしね。無理矢理、看て貰ったのも俺達だし」




早苗の吐き出す言葉の一つ一つに返答をつける清貴を、早苗はチラっと睨みつけて言葉を続けた。




「なんだって、こんなくっついた状態で、外出しなくちゃならないのよ」




そう言うと、早苗は足下の空き缶を思いっきり蹴り上げた。




「あの、だから俺なら出前でいいって」




「連休だから、何処も休みですぅ~」




口をとがらせて答える早苗。二人は今、デパートに向かっている。清貴のアパートの冷蔵庫は何ぶん男所帯の為、殆ど空と言って良いほど何もない。心馳せに、ビールが数缶冷えているだけである。




「ドライブスルーは?」




「は! タクシーで? バッカじゃないの!」




そう、二人はくっついているのだから、とても車を運転出来る状態ではない。憎らしげな早苗の態度に、半ばムキになって清貴は言う。




「じゃあ、宅配ピザだ! 30分で届くぞ!」




清貴はどうだ、と言うようにふんぞり返っている。




「三食三日? 続けて? うふふ」




「ははは」




早苗につられ、清貴もワケも分からず一緒に笑う。

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