第5話
「あぁ~ら、早苗ちゃん。お出掛け?」
「ええ、まぁ」
近所でも有名なおしゃべりの田島君恵である。別名『歩くスピーカー』。まずい相手に見つかってしまった、早苗は心の中で舌打ちした。そんな早苗の心中を知って知らでか、君恵は一人で喋り続ける。
「ウチは旦那の両親が遊びに来て、もう、てんてこまい。下手な料理は出せないんで、ちょっと買い出しにね」
そうして、君恵はややオーバーすぎるジェスチャーで叫んだ。
「ところで、早苗ちゃん。こちらは、あなたの恋人?」
「違っ…」
「はい!」
否定しようとする清貴の口を片手で覆って早苗がすかさず返事をする。
「…モゴモゴ」
「いいわねぇ。若い人は仲が良くって」
そう言って、君恵の視線はチラリと早苗の肩に向けられる。
「いえ、違っ…」
再び否定しようとする清貴の足を早苗が思いっきりヒールのある靴で踏みにじる。
「!?っっ」
声とも悲鳴とも成らない叫びを清貴は必死の思いでかみ殺した。一瞬、君恵は不思議そうに清貴の方を振り向いたが、すぐに早苗の方に向き直り、意味ありげに言葉を続けた。
「ホントに仲がおよろしくって。おほほ」
「ほほほ」
とまでは、さすがに笑わなかったが、早苗も負けじと作り笑いで対抗する。清貴は改めて女の怖さを実感する事となった。
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