二章:スピーカー主婦登場

第4話

「ほら、もっと引っ付きなさいよ」




早苗の言葉、今別れんとせん、恋人同士の言葉としてはいささか妙である。




「やだね」




そうそう、この清貴の返答、これが本当である。




「みんなが変な目で振り返って行くじゃない」




え? どうして?




「俺はいっこうにかまわないよ」




だよね~、二人は別れたがっているんだから。




「私がイヤなの!」




分かんないなぁ…なんて、読者さんのお声が聞こえて来そう。




「これだから、女は面倒なんだ。見栄と虚栄心の塊で、嘘の塊。目も当てられないね」




この二人の会話の矛盾いかがな物か。つまりは、こういう事なのである。今、清貴の手は早苗の右肩にしっかりと接着剤で固定されている。そう、言うなれば肩に手を回している状態。恋人同士で二人っきりの時によくやりますね。にも関わらず、二人の体が磁石の様に離れたがっていたらどうします? これは、いささか変ですね。




彼らとすれ違う人々が不思議そうに振り返り、また、早苗がやたら引っ付きたがっているワケが分かってもらえたでしょうか? さて、二人の状態が分かったところでストーリーに戻りましょう。




「つべこべ言わずに引っ付きなさいよ。どうせ取れてしまえば、もう、二度と顔をつきあわすことも無いんだから」




そう言って、早苗が強引に清貴を引き寄せた時だった。背後からいきなり声が掛かる。

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