第3話
清貴は早苗に言われるままに、自分の手のひらに視線を落とした。
「それ、接着剤じゃないの!?」
「あ、ああ。…そうみたいだね」
「まさか、あなた…。その接着剤をつけた手で私の肩を掴んだんじゃないでしょうね!?」
早苗の声がわなわなと震えている。
「そう…カモしれない……」
「嘘でしょ、信じられない! ちょっと、それ見せてよ!!」
怖い目をして清貴の手からチューブをひったくる早苗。二人でのぞき込むようにして見た。
「「一度引っ付いたら離れない。象だってくっつけられる優れ物。超強力瞬間接着剤『ピッタンコ』。」」
二人が同時に声に出して読む。
「あはは、『ピッタンコ』だってさ。変な名前。こんなの買ってたっけ?」
「ちょっと、笑い事じゃないでしょ。どーしてくれんのよ。未練が有るのはあなたの方じゃないの?」
思いの外のほほんとした清貴の言葉に、声を荒げる早苗。
「違うね。あれは決裂する前の話! 今はこれっぽっちも未練はありません!」
シレっとした表情で言う清貴。
「あぁ~ら、そう。じゃあ、病院に行きましょうよ。すぐに取ってくれるわよ」
「君にしてはいい意見だ」
喧嘩中とあって、二人の言葉は妙に刺々しい。
「意見は一致ね。じゃあ、行きましょ!」
「あ~。いいとも」
こんな風に意見を一致させると、二人はいったん付き合わせた顔を、フンッ! といった鼻息とともにこれ見よがしにそっぽへと向けた。いやはや、何ともまぁ、こんな具合に物語は始まったのである。
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