第28話

メールのたどり着いた先、ポップでカラフルなシールやプリクラに彩られた、一台のノートパソコン。一人の少女がシオンからのメールを沈んだ面持ちで見つめている。突如、開く背後の扉。少女は振り返る。




「めぐりんさーん、時間です!」




キャップをかぶったスタッフの声。振り返った少女は、パステルブルーのひらひらの衣装に身を包み、愛らしいメイキャップをほどこしている。少女は、しばしメールを気にした様子で立ち上がれずにいるも、やがて、ノートパソコンを閉じ、控え室をあとにする。




少女が行き着いた先は、ステージの袖。スタッフからマイクを手渡された少女にマネージャーが耳打ちする。




「すごい、今日も観客が一杯だ。みんなキミを見に来てる。目一杯はじけといで」




そう言うと、少女の背中を一押しする。少女は沈んだ面持ちをすぐさま消し去り、とびっきりの笑顔でマイクを片手にステージに駆け出してゆく。




「「めぐりーん!」」




ステージに沸き起こる歓声。観客の視線の集まる、ステージの中央にまでたどり着いた少女は、両手でマイクを支え笑顔で遠い観客席にも届くよう、大きく語りかける。




「みんな、今日はめぐのためにコンサートに来てくれてありがとう。まずは、みんなもよく知ってる『メレンゲ』からね!」




ポップに鳴り響くサウンド、マイクを通し会場に響く、めぐりんの歌声。シュガーボイス。かくして、めくるめく偽めぐりんとの交流は終わった。夢のような日々。しかして、その実態は悪夢の日々。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る