第23話
自宅――
僕はしばし、パソコンの前で頬杖をつき、一通の未開封のメールタイトルを眺めている。めぐりんからのメール。太字のまま佇んでいる。僕は憂鬱な面持ちのままメールを開く。ざっと目を通し、僕は小さく鼻で笑う。しばし返信を書かない僕を気遣ってめぐりんがメールを寄越して来てくれたのだ。
――寄越して来てくれた?
寄越して? 来てくれた?僕は思わず吹き出す。めぐりんからのメール。偽、偽、偽、偽メールはかのごとき白々しき内容。
『シオンさんから返信がなかなか返ってこないから、心配になっちゃってメールしてます。ひょっとして、今、体調を崩してるの? 今、タチの悪いインフルエンザが流行ってるから、ひょっとしてそうなのかなぁ? と思いました。私の周りもダウンしてる人が結構多くて、私はスケジュールも詰まってるし、絶対うつらないようにって注意してます。シオンさんも元気になってからでいいんで、また返信してくださいね。 byめぐ』
――なんて優しい。なんて心温まる、慈悲深きめぐりんのメール。これが本物なら。本心なら。なんて慈悲深き……ほんの少し前の僕なら、こんな彼女からのメールに桃色・イエロー・ライトグリーンetc.etc.なんて、ほんわかパステル色の水玉模様の背景を思い浮かべ、しばし、にやついていただろう。
だけど、偽めぐりんと判明した今や、彼女のメールは失笑ものだった。彼女が慈悲深き女神を演じようとすればするほどに、苦い笑いがこみ上げてくる。罠、罠、罠、罠、うずまくダーキーカラー。
なんてあくどき美辞麗句。
彼女の打ち出す文字列がパソコンのディスプレイから次々と湧き出し、部屋の中を呪音さながらにうごめく。そうして僕の周りをからかうよう飛び跳ね、また囲い込み、身をするする引き伸ばし僕に巻きつくと、僕の困惑の表情をしばし覗き込み、かと思えばあっという間に縮む。そうしてひたすらあざ笑う。高笑いする。
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