第17話
相変わらず、僕がでれでれしながら、桜の写真に添えるメール文を打ち込んでいると、遠くに坂口の姿。桜の下の僕に気づいたのが見える。内心焦る僕。坂口は僕がめぐりんとはもうとっくに切れていると思っている。
やばいと僕が背を向けるも、時既に遅し、坂口が駆けつけてきて、すぐさまちょっかいをかけてくる。
「なになに、その写メール、彼女にでも送るの?」
いつものからかい気味な口調に、なれなれしく僕の肩に回される坂口の腕。
「や、別に」
僕は目をそらす。そうして、この状況をいかにごまかそうかと高速で思案する。だけど、そんなことはおかまいなしに、坂口はしゃべくっちゃってくれる。
「って、お前に彼女なんかいるわけないっかぁ! しがないアイドルオタクだもんなぁ! お前もアイドルオタク止めちまえば、彼女の一人でもできるだろうになぁ、ミバはそう悪くねーのに。なんせ、中身がなぁ!」
坂口が一人悦に入りながら語る間にも、僕はこっそり携帯をジーパンのポケットにすべり込ませようとする。それを目ざとく見つけ、奪い取る坂口。大慌てする僕。
「どーせ、かーちゃんか、ねーちゃんかなんかだろ? 何書いてんのか、見せてみろよ」
「やめろよ!」
坂口の手にうつった携帯を焦って奪い返そうとするも、いかんせん坂口の方が背が高い。僕の手の届かぬめいっぱいの高位置にまで片腕を伸ばし、坂口は僕の書きかけのメールチェックを始める。
「そうムキになって隠されちゃうと、見たくなっちゃう。人間のホンノウってやつ?」
僕が取り返そうとするのをおちょくるかのよう坂口は飛びのけ、追いすがる僕をするり避け、どんどんメールをスクロールしてゆく。高い高いところに片腕をキープしたまま。だけど、メールを読み進めるうちに、坂口のおちょくり顔が次第に真顔に戻りだす。高々上げた腕も徐々にと下りてくる。
そうして両腕がすっかり腰の位置にまで落ち着いたところで、坂口は僕を振り返る。いつものからかい顔とはてんで違う坂口の顔。だけど、そのめいっぱいの真顔が不審顔が痛い。僕は思わず目を伏せる。そうして、バツの悪い顔で坂口を上目遣いに見返す。
「もうやめたって言ってなかったっけ?」
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