第16話

らんらんと咲き誇る桜が、キャンパス一帯を淡いピンクで染め上げる。咲きこぼれた花びらのいくつかが風にあおられ、ひらり空(くう)を舞う。




僕は携帯のカメラを右手で構えると幾度となく角度を確かめ、桜の花弁の集合体を小さなフレームにおさめる。鳴り響くシャッター音。いくつものピンクのアングルの中よりすぐりの写真を1、2枚チョイスしメールに添付するつもりだ。発信先はもちろん、めぐりん。




大学のキャンパスの桜が今、丁度見ごろで、学生たちがランチがてらに花見をしていることを話したら、めぐりんが見たいって。今年は忙しくってゆっくり花見ができそうもないからって。うーん、そんなおねだりをされるなんて、なんだか恋人ちっくだな、なーんてふと思っちゃうも、いやいや、それはないけどね。と、僕は一瞬前の考えをすぐさま打ち消す。




右斜め向かい、カップルらしき男女が桜の木の下、芝生に黄色いビニールシートを広げ、お弁当を食べている。もうひと奥向こうでは、カップルが寄り添い、桜の枝を見上げ、指差して何かを話している。それを穏やかな眼差しで見やる僕。僕はあくまでもめぐりんの一ファン。それ以上でもそれ以下でもない。僕だってその辺はわきまえてるさ。めぐりんはファンサービスが最高に行き届いているんだよ。だからメジャーアイドルになれるのさ。




一瞬勘違いしそうになるけどね。でも、それでいいんだ。万人にさんさんと振りまかれる笑顔。とびっきりのアイドルスマイル。みんな思う。コンサート会場の中、一瞬キミに向けられたその視線が自らに微笑みかけてきた特別なスマイルだと。




そのスマイルは、ほんの1mmだけど、他とは違うのだと。――願う。キミの笑顔、キミの笑顔、みんな錯覚しそうになる。この心の交錯感、錯覚を招くあやうさがイイ。アイドルなら、こうじゃないとね。




 僕は軽く伸びをする。春の日差しを浴びながら。にしたって、マンツーマンでこんな風にめぐりんと毎日話せるなんて、ほっんっと役得だなぁ! 僕は果報者だ。これはちょっとないよね? 他のファンにバレたら嫉妬し殺されちゃうかも? 頑張ってファンサイト続けてみるもんだなぁ、これはめぐりんを応援し続けた僕に、神様がくれたご褒美だよね?

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