第13話
大学―― 一時限目の講義が終わり、終業のベルが鳴ると同時に前の座席に座っていた坂口がこちらを振り向いてくる。そうして、興味深げに、またちょっとばかり意地悪く、切り出してきた。
「で、偽めぐりんは、どうした?」
「偽」と言い切るところが憎らしい。坂口の手元にはこぎれいに重ねられたノートと筆入れが置かれている。終業のベルが鳴るもう随分前に後片付けを済ませておいたのだろう。
要領の良い奴だ。毎度水をさす坂口の言い草、だけど、坂口の反応――これがごくごく一般的な反応なのだろう。まるっきり大嘘だけれど、僕は偽めぐりんを適当にうっちゃけた旨を坂口に伝えた。
そうして、ノートを重ねつつ、あれこれ適当にそれらしきことを坂口に作り話している間も、めぐりんの早朝メールを思い出し、しばしば、うかれ顔が漏れそうになった。が、そうした瞬間は坂口の視線のおよばぬ方向へと慌てて顔をそむけ、必死に体勢を整えなおしたりして、ここは敢えてポーカーフェイスで押し切った。
何度もあらぬ方向を向く僕を見て、さすがに坂口も不審に思ったかもしれない。けど、どうせ分からない奴には分からないんだ。そんな僕に、なぜだか少しホッとしたような坂口の顔。
「だろー? あんなのにひっかかってみろ、ネットに晒されるぞ。そこまで騙しに力入れてんだ、きっとネカマサイトなんか作ってるぜ。で、ヘタに深入りしたら、お前のメールもサイトに根こそぎ晒されちゃうかもな。そんなの親友として見ちゃいられないし」
そうして最後の親友付近の一言だけをやたらと早口に言い終えると、坂口はそれ以降、疑惑のめぐりんについては、取り立てて突っ込んで来なくなった。それもそうだろう、別段坂口はめぐりんのファンってわけでもないんだから。
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