三章:メール

第10話

自宅に帰り僕はパソコンを起動する。青いグラデーションの起動画面を眺めつつ、Windowsのロゴデザインを眺めつつ僕は思う。坂口がああは言っていたが、だけど、僕はどこか自称めぐりんを信じたかった。だから坂口にはナイショでミルクに返事を書くことにした。めぐりんとして。僕はキーボードを叩き始める。




『今ほっぺをつねってるところです。ホントにめぐりんですか? まるで夢のようです。これからもメール交換を続けてくれますか? by シオン』




ごくごく短文だけれど、文に漢字の変換ミスなどの凡ミスや変な表現が無いかを、いつもよりもやたらと丹念に見直した。僕の驚きと喜びがより伝わるようびっくりの(@_@)顔文字を入れようかとも思ったが、しばし悩んだ末、今回はやめておくことにした。そうしていよいよ、緊張の送信。マウスでクリッーク。クリック!発信しました。発信しましたぁーめぐりんへ。




あのめぐりんだよ。うわー! 信じられないよ。僕の脳の奥にわくわくするような脳内物質があふれ返ってくる。きっと幸せってこんなことを言うんじゃなかろうか?と、頬杖をつき、にやけきった顔で僕はメールボックスを眺め続ける。




だけど、待てど暮らせどミルクからの返事は返ってこない。無音の部屋の中、パソコンのファン音がやたらと切ない。メールボックスはいつまでも済まし顔で佇んでいる。次第に頭をうなだれる僕。




しかし、うなだれつつもすぐさま思い直す。いや、当たり前だ。まだ5分しか経ってない。5分じゃ、いくらなんでも返ってこないだろう。




ディスプレイの右下の小さな時計を見ると、もう夜の11時も半ばを回っている。今日はもうすっかり遅いし、どんだけ早くても、ミルクから返信が返ってくるのはきっと明日だろう。どうせ寝てしまえば、メールチェックなどできやしないのだがその日はパソコンの電源を落とさず寝ることにした。

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