第9話

またも言葉を無くす坂口。眉間に小さくシワを寄せ何かを考え込んでいる。その坂口の表情の変化にますます奇妙なものを感じる僕。




いたずらにしては妙にマメだと坂口も思ったのか、坂口はそれ以上突っ込んでこない。確かにそうかも、ネカマのイタズラメールもせいぜい5~6回で終わるのが関の山だ。僕にもすこぶる不思議だが、なぜだか、僕の方が優勢らしいのだ。僕は言葉を続ける。




「それにさ……僕のサイト、自分で言うのもなんだけど、ケッコウ流行ってるじゃん? 大体一日平均2000人くらい来るし。めぐりんがちょっとメディアに取り上げられた日なんか、瞬間的だけど、アクセスが軽く数万、越えちゃうし、ひょっとしたら、あるかもしれないって、ちょっと思い始めてる……」




そうなのか?! ありなのか?? 自らで言い放ちながらもその言葉に愕然とする僕。これは、あり得る出来事なのか??? 僕はこうして、話の流れで坂口に反論している内に次第にミルクが本当にめぐりんかもしれないと思い始めていた。そこに大いなる願望があったにしても。ありえない話ではないと、妙な確信がわいてきた。




いつになく気圧され気味の坂口。僕の言葉に惑わされ、すっかり唖然とした顔をしている。しかし、すぐに我に返り、笑いながら切り返す。




「ないない!! やっぱありえないって。だって、アイドルでしょ? ゲーノージンでしょ? オレらとは棲む世界が違うから。もはや別世界の人ですよ。そんなヤツがオレらなんて相手にするわけないじゃん!」




めいっぱいの失笑だ。だけど、坂口のいつも通りの失笑では、一度わいてしまった僕の中の確信を完全に消し去るまでには行かなかった。

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