第14話

「別れの時、私は泣きませんでした。だだをこねたりもしませんでした。ただ、笑ってバイバイって」




冴子は笑う。一瞬泣いているような目をした気がしたが、それは目の錯覚だったようだ。涙はこぼれていない。




冴子はしばし押し黙る。何か言いたげなだけど考えこむような。口を開くのに二の足を踏む冴子に、男が始めて口を開く。




「……それで?」




「その後、3年ほどして、風の便りで聞きました。彼が結婚したって。できちゃった結婚だったそうです。最近若い人に多いですよね。妊娠してしばらくして、おなかが大きくなるまでにって急いで式をあげて。私のところに、ハガキは来なかったけど。きっと、今も幸せに暮らしてると思います」




冴子は口を開く。




「それでオシマイです」




二人は押し黙る。しばしの沈黙の後、口を開く男。




「だから、冴子さんは、僕を好きになったんだろうね。僕もそれはすごくよく分かるから」




「……」




「でも、そんな悲しいことは、終わりにしましょう」




男はぎこちない動きで冴子の手を握る。




「はい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る