第11話

冴子の言葉が終ったのを見計らい男が口を開く。




「僕だってしかめっつらをしている日もあります。ひたすら悩んだ時期もありました」




男は笑う。とびっきりの笑顔で。そして言う。




「でもね、だってこんな風に生まれちゃったらどうしようもないんですよ。こればかりはどうしようもないんです。だから、けせらせら、ですよ。同じ生きるなら、どんな人生も笑顔で生きた方が幸せです」




冴子は男の両手を取り、自らの華奢な手のひらで包んだ。




「私にそれを教えてください。あなたの笑顔の秘密を一生かけて私に教えてください」




それはもしかしたら冴子の逆プロポーズだったのかもしれない。




「僕はあなたが思っているほど純粋じゃないかもしれませんよ。きっとほがらかでもないでしょう」




男は言う。冴子は更に男の両手を力強く包み込む。




「分かってます。でもね、あなたは他の人よりもずっと多くの業を背負っているもの。ほがらかじゃなくって当然だし、沈んでたっておかしくない」




冴子は微笑む。




「でもあなたの笑顔もわかります。そうして、笑顔の下に氷山のように大きな大きな努力。それがあるのも分かります。みんな分かりますから」

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