第2話

ガソリンスタンドから車を走らせていると助手席に座る、美奈子が覗き込みながら話しかけてくる。




「ねーねーさっきの人すごかったね」




「なにが?」




走る景色。




「なにがって、手足がおかしかったじゃん」と美奈子。




「そう?」冴子は表情一つ変えない。




「そう? って、冴子。あーんなにおかしな動きをしてじゃない」




座ったまま中途半端に男のまねをする美奈子。冴子は何も答えない。美奈子が一人でしゃべくっちゃっている。




「あーでも大変だなー。あんな風に生まれちゃうと生きてくのって、きっと大変だよねー。私だったら生きることに絶望して死んじゃうかも」




しばし黙りこくっていた冴子が唐突に口を開く。その声はやけにあっけらかんとしていた。




「美奈子、この間の水曜、ナオトがテレビに出てたの気付いてた?」




「えーうそー! 見逃しちゃった! 何時何時」




冴子の言葉に、すぐに釣られる美奈子。ナオトの猛烈ファン、身を乗り出して来る。




「私は見ちゃったもーん!」




ハンドルを手にしたまま、おちゃらけ声の冴子。




意図的だった。意図的に冴子は話をそらし、脇で一人でしゃべる。小さく笑いながら、そんなことはどうだってよかった。




冴子は車を走らせながら、すれ違う人々の顔を眺めている、そうして必死に探しているのだが、どこにも見当たらない。どれもこれも無表情だったり、小さな笑いだったり、ぶすったれていたりして、冴子はますます一つの確信を深めていく。

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