第34話

立ち上がり逃げ出そうとする私。気がつけば昨日まであった、足の手錠がない。首輪がない。




(逃げれる!)




バカな王子、私が寝苦しいと思ってはずしてくれたのね! バカな王子、バカな王子、だけど、優しい王子。




逃げ出そうとする私に気づき、突如襲い掛かってくる王子。それまでとは打って変わって凶暴な動き。私は身の危険を覚え、手に触れたモップをおぼつかない両腕でつかみあげる。




不穏を感じ、私の腕をつかみあげようとする王子。だけど、私はそれを振りほどき、そうして振り下ろす。よろめきに乗じ。




「いや、離して! こんなものがあるからイケナイのよ!!!」




打ち下ろされた先は、王子の大好きな、王子がいつも四六時中眺めている、パソコンのディスプレイ。




私はわけも分からず、わめきながら打ち下ろす。




何度も何度も、メタ打ちした。やがて女のヤワ腕に、だけど、私の全力を尽くした力に、あっけなく崩壊するディスプレイ。




そうして、全てを破壊しつくし、王子を振り返る私。仁王立つ私。そうして、言い放つ。




「現実を見ろ! このバカ男!!!! いつまでもウジウジと過去を引きずってんな!!!!!」




あまりの出来事に呆ける王子。




それもそうだろう、ショックを隠しきれないようだ。きょとんとして固まっている。その姿がやけに滑稽だった。だけど、私は笑わない。それどころじゃない。怒りと興奮と、妙なすがすがしさで息を切らす。肩を揺らす。




そうして、私と無残に破壊されたパソコンのディスプレイを交互に省みる王子。




王子は誰に言うでもなく、




「あーあ…ひどいことをするなぁ…」




とだけ言い、腰をかがめ、崩壊したディスプレイを覗き込んだ。

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