第30話
王子の背中--
小さくもないのに、妙にこじんまりとまとまった背中をこれ以上見ていたくなかった。
私はたまらず叫ぶ。
「なぜ私を監禁するの? もう気が済んだでしょう?」
私は立て続いて叫ぶ。
「あんたのことは誰にもバラさないわよ!」
王子は私を無言で見つめる。私は叫ぶ。
「デブで、ニートで、童貞だったってことも。ダサいメガネで、頭皮がおぼつかないことも。一緒にいて、ちっともつまんないことも!」
なんてひどい言葉の羅列だろう、なんて表現なんだろう? もっと他に適当な表現はなかったのだろうか? でも、そのまま口を開けば、私はもっと ひどい言葉を羅列してしまったろう。そうして、王子にあますことなく投げつけただろう。
だけど、王子は怒らない。
「だろうね」と、穏やかにうなづくだけだ。私は絶望する。もっと絶望する。
「あたしを家に帰して!」
そう言うしかなかった。他に言葉がなかった。そんな私に、王子はすこぶる意外な言葉を吐く。私は我が耳を疑う。おだやかに王子。
「キミといると楽なんだ。今更こんなことを言うのもなんだけど、安らぎを覚える。キミは本当の僕を知っても、それでも変わらず接してくれる。ずっとこうしていられたらなって思う」
これは、愛の告白?
…いいえ、そうじゃない。
私はそんな言葉に惑わされない。
「でも、"好き"じゃない…でしょう?」
王子は答えない。
「好きな女の前で、男はイイカッコするもんよ」
私は自嘲気味に笑う。王子の無言が私をイラ立たせる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます