第30話

王子の背中--




小さくもないのに、妙にこじんまりとまとまった背中をこれ以上見ていたくなかった。




私はたまらず叫ぶ。




「なぜ私を監禁するの? もう気が済んだでしょう?」




私は立て続いて叫ぶ。




「あんたのことは誰にもバラさないわよ!」




王子は私を無言で見つめる。私は叫ぶ。




「デブで、ニートで、童貞だったってことも。ダサいメガネで、頭皮がおぼつかないことも。一緒にいて、ちっともつまんないことも!」




なんてひどい言葉の羅列だろう、なんて表現なんだろう? もっと他に適当な表現はなかったのだろうか? でも、そのまま口を開けば、私はもっと ひどい言葉を羅列してしまったろう。そうして、王子にあますことなく投げつけただろう。




だけど、王子は怒らない。




「だろうね」と、穏やかにうなづくだけだ。私は絶望する。もっと絶望する。




「あたしを家に帰して!」




そう言うしかなかった。他に言葉がなかった。そんな私に、王子はすこぶる意外な言葉を吐く。私は我が耳を疑う。おだやかに王子。




「キミといると楽なんだ。今更こんなことを言うのもなんだけど、安らぎを覚える。キミは本当の僕を知っても、それでも変わらず接してくれる。ずっとこうしていられたらなって思う」




これは、愛の告白?




…いいえ、そうじゃない。




私はそんな言葉に惑わされない。




「でも、"好き"じゃない…でしょう?」




王子は答えない。




「好きな女の前で、男はイイカッコするもんよ」




私は自嘲気味に笑う。王子の無言が私をイラ立たせる。

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