第29話
なぜだか涙があふれてくる。
未だかつてこんな大粒のしずくがあったでしょうか? ってくらい。さめざめと、そしてとめどなく溢れ出る涙。
王子は驚いていた。だけど、私はもっと驚いていた。そうして狼狽していた。
頬を伝うその液体の感触に。その生ぬるい2筋の液体。流し続ければ、きっと塩っぽくなるであろう例の液体。
王子は優しい。
王子は気づきフォローする。
私を気遣う王子のこまごまとしたもの。
それは、日々訪れる王子のコミュニティーの訪問者に対するものと何一つ変わりやしない。王子は誰にでも優しく。誰にでも親切だ。
そうして、王子は誰の要望も聞く。
私は、今トクベツな環境にいるかもしれない。だけど、日々コミュニティーに訪れる3万人の訪問者と何一つ変わりやしない。王子をかたくなに内にこもらせている彼女に対する代物とはマッタクの別物だ。
王子は優しい。
だけど、それは王子にとってはごくごく当たり前のこと。
そう思うと途端に絶望してきた。近いだけに残酷だ。その優しさは残酷だ。そんなことに気づいてしまうと、私は途端に王子に監禁されていることがイヤになってきた。
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