第17話

パソコンに向かったままの王子はまだ気づいていない。王子を誘惑するため、いつもよりちょっと深めのスリットのスカートを履いてきていた私。てんで役に立たなかったけれど、むしろ、今この状況では、すっかりと自分に不利となってしまっている。




変に性欲を刺激しないようにしないとと、背筋に走る悪寒にせかされつつ、手錠のはめられた両手で、スカートのすそを必死に整える。焦る。




そうして、王子に気づかれることなく、無難に寝姿勢が整ったところで、安堵に胸を撫で下ろしつつ、私は口を開く。




「ね、普段、お仕事は何してるの?」




唐突にそんな質問を私がするにはワケがあった。王子の出勤時間に合わせて、逃亡してしまおうという寸法だ。すぐの逃亡は難しいかもしれない。しかし、何日か王子の生活サイクルを見ていれば、いずれ逃亡のチャンスがめぐってくるはずだ。




私の質問に王子、また、振り返ることもなく返事する。




「とくにこれといって仕事はしてない。コミュニティーの管理と、あと、強いて言えば、このマンションの管理人かな?」




(そ、それって、ていのいいニートでは? …って、無職かよ!)




王子への無言の突っ込みとともに、言葉をなくす私。




かくして、王子が勤めに行っている間に逃亡するという、監禁され女としてしごくまっとうな、私の逃亡計画その1は、これで見事抹消されてしまった。




王子に気取られぬよう、ひっそりとため息をつく私。




しかし、そんな状況下でも、いつの間にか眠ってしまった私だ。どれほどの時間が過ぎたのだろう? ここからは時計がまるで見えないので、時間の流れがまったく分からない。拘束されているというのに、なんて緊張感のない女なのだろう。王子が悪いんだ、私に横になっていいなんて言うから。




王子に心の中でブツブツ文句を言っていると、やおら王子が私を覗き込んできた。




「メシ…食う?」

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