第10話
王子の言葉。
少しだけ思った。だけど、私は黙って首を振る。それが人としての最低限のマナーだと思ったからだ。ディスプレイの画面越しに私を見る王子。ただ、確実に私の心の中で何かが萎えてきたのは確かだった。それを見透かしてか、王子はこんな風に言う。私を振り返り王子。
「大きなコミュニティーを管理しているからって、別に管理者自身がトクベツに魅力的ってわけでもないからね。むしろ、自分っていうものが無い方が、大きなコミュニティーの管理には向きやすいんだ」
王子は淡々と話し続ける。
「苦情が来れば対応し、要望がくれば要望に応える。メールがくれば返信して、メールがくれば返信して。それを日々黙々と繰り返している内に、こんなに大きなコミュニティーになってしまった。ただ、それだけ」
私はぼんやりと王子の二重あごを眺めている。2、3本ちょろっと生えた髭のそり残がわびしい。
「こんな話はつまんないか?」
つまんなくはないが、そんな風に言われると、途端につまらないもののように思えてくる。王子の会話は疑問符が多い。いや、会話というほどの代物ではない、ただ、時折思い出したように単発で言葉を発するという表現の方が正しいかもしれない。
正直な感想、こんな人だとは思わなかった。
部屋を改めて見回すと、さほど散らかってはいないものの、てんで女っけの無い殺風景な景色。そうだろうと思う。
この棟一帯が彼の父親のマンションであることにばかり気を取られ、またも、私はすっかり欲に目がくらんでいたようだ。
ランチは店屋物を頼んだ。王子は私に気を使ってくれてか、うな重を頼んでくれる。さすがお金持ち。私たちは二人で向かい合い、何を話すでもなく、届いた店屋物を食べる。
箸で簡単に切り分けられるほどにふうわりとやわらかいうなぎ。ご飯はタレがしみ渡り。そうして、私はうな重についてきた吸い物をすする。王子も私も黙々と食べる。
うな重はおいしかった。
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