二章:リアル王子

第5話

605号室。マンションの扉前。




「とうとう来ちゃったね…」




チャイムの後に、ドア越しから漏れ聞こえる王子の声。




「ちゃった?」




疑問符とともに、ゆったりとマンションの扉が開き、王子のお部屋へと招き入れられる私。




そうして、目の前には夢にまで見た王子の姿。私をお城へと招き入れてくれた王子の姿といえば。




(お、面影ほとんどねー! 写メうそっぱちじゃん!!!)




ずんぐりと私の目の前に立つ一人の男。




(だ、だまされちゃったの? 私ってば、だまされちゃったの?)




写メとのあまりの落差に一瞬めまいを起こしそうになる私。写メのスリムな王子とは似てもにつかぬ男。だらしなく腹をたるませ、そうして、どんなチョイスをしたのやら、やたらめったらダサいシャツ。




レンズがいまいち磨ききれていない、さえない眼鏡面。思わずむしりとって磨き上げたくなる。




一応散発には行ったみたいだけれど、デートの直前に行ったセイか、不自然にキレイで短い髪。ちっとも王子の顔になじんでいないったらありゃしない。そうして、年の割に心なしかおぼつかない毛。淡く頭皮が見える。




(こ、これが王子ですって?! えぇぇぇ! そ、そんなぁぁ~~~!!)




かろうじで、右目の泣きボクロがそれでも写メのイケメン王子と


この目の前のさえない男とが同一人物であることをつなぎ合わせる。




唖然とする私に、王子は一言。




「まぁ、あがりなよ」

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