六章:花子のキモチと旦那の言い分

第35話

腕組み冷ややかな表情で、ため息をつく花子。花子のため息が軽く場の空気を緊張させる。




そして五分後――


車から連れてこられた、斉藤の彼女、美鈴があいさつを交わしながらリビングに登場する。そうして、すぐに場に溶け込み、やがて、リビング奥のキッチンで何やらごそごそしはじめる。




そして数十分後、




「勝手にお台所つかっちゃってすみません」




そう言って、大輔と花子に謝りながら、お盆を片手にみんなにコーヒーを配って回る。




「あ、おいし」




斉藤が一口飲んでほっとした顔をする。この大輔邸に来客して初めてのお茶だ。




斉藤が得意げに美鈴をあごでしゃくる。




「彼女気ぃ効くっしょ! 奥さんに最適って感じ!」




「もーやだー! かぁくんったらぁ」




恥ずかしそうに肩で斉藤を小突く美鈴。




「やだーじゃねーよ、オレは本当にそう思ってんだぜ」




そう言って美鈴を片手で抱き寄せると髪に軽くキスをする。それを見てどぎまぎした田中が首をすくめ無言でコーヒーをすする。




斉藤が美鈴といちゃついて場の空気を緊迫と弛緩でそこはかとなく奇妙なものに仕立て上げていると、再び玄関のチャイムが鳴った。




「待ってましたぁ!」




嬉々とした表情で大輔が、玄関先へと駆け出す。

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