第32話

規則的に刻む壁の時計の秒針。手をくんだり外したり、かすかに落ち着きのなさを見せる田中。




そうして三十分後、ようやくリビングの扉が開く。居心地の悪さに辟易していた田中が救世主と言わんばかりにソファーの背に両手で小さくすがり、扉に熱心な視線をやる。




大輔とともに、リビングに現れた一人の青年。




今度は軽く毛先をワックスでアレンジした、くっきりとした顔立ちの青年だ。薄い唇は不敵に笑い、少しだけ軽そうな雰囲気を匂わせる。




「今度は営業の斉藤君です。こいつも後輩。山田君とはちょっと任されている仕事の質が違うけど、一応職場の同僚だよね?」




軽い会釈と目配で、あいさつを交わす田中と斉藤。




「さ、彼女に説明してやって」




斉藤に花子への解説を促す大輔。田中の脇、ソファーに座るも斉藤が大輔を振り返り、軽口をたたく。




「せんぱーい、約束のチケット絶対ですよ。オレ、車で彼女待たせてるし時間ないんで、早めに済ませていいっすか?」




「わかったわかった、約束どおりするから、早く説明してやって」




ちょいチャラな感じの斉藤が得意げに、いつもの軽い口ノリでしゃべりだす。片手でかったるそうに、例のラブメールをプリントアウトした用紙をひらつかせながら。




「あー奥さん、これねーオレのところにもよく来るんですよ。すごいっすよ。仕事の邪魔だもん、毎日100通とかありえないし。ほんと、毎日毎日笑っちゃいますよ。だから、旦那さんが浮気っていうのとは、全然違いますよ。これはオレがバッチリ保証しますから」




これまた、斉藤のあまりの言葉足らずに、きょとんとした花子。




「なに、この人、何言ってんの?」

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