第31話

が、一方、口をつぐみ、ひたすら田中の講釈を聞き続けていた花子の眉間にはみるみるシワがより、ついにはキれたように、大口を開き大輔を睨み上げる。




「わかんない! この人何言ってんのか、さっぱりわかんないわよ!! ねぇ、あなた、何この人!!」




花子の言葉に「え?」っと驚いた顔の田中。




そっくり伝わっていたと思っていたハズの自らの講釈が何の効果も発していないどころか、花子と何一つ以心伝心できていなかったことに対し、途端に焦りを見せる田中。




身振りをさらに大きくし、訴えるように必死に口を開く。額には汗が滲み出し、かすかにどもり始める。




「い、いや、あ、あのですね、奥さん。スパムメールというのはですね、やー、や! どう話したらいいかなぁ? あーうーん、スパムっていうのは…あー、あのですねぇ、あ、この家の郵便受けにもダイレクトメールちょこちょこ来ますよね?」




頭を抱えそうになりつつも、必死に花子に伝えるべく言葉をしぼり出そうとする田中を見て、ますますぶちキれてしまった花子が叫ぶ。




「二人でよってたかって私を丸め込もうとして! そんなわけの分らない単語を並べられたって、ちっともわかんないわよ!!!」




そこまで言い終えると、再び顔を覆い泣き出す花子。その様相に焦りを見せた大輔が立ち上がり、身を翻そうとする、




「田中、悪い、ちょっと待ってて、妻を頼む!」




そう言い残すと大輔は再び携帯電話を取り出し、廊下に駆け出そうとする。




「え! あ、僕一人でここにいるんですか?!」




一人置いてきぼりを食らわされそうになり、半腰で狼狽した声を上げる田中をほっぽらかしてあっという間に立ち去ってしまう大輔。諦めたように田中はソファーに腰を下ろす。




田中の前には状況が状況だけに、お茶すら出ていない。そのことに花子はふと気付くも、口をつぐんでうつむいてしまう。




取り残された二人は何を話すでもなく、途端にリビング一帯に気まずい空気が流れ始める。

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