第30話

田中は大輔に促されるままに、花子のプリントアウトしていた、女たちからのラブメールを手に講釈を始める。




「奥さん、これはですね、スパムメールと申しまして。ネットに点在している掲示板やホームページなどに掲載されているメールアドレスを、自動プログラム等で収集して、そのアドレス宛に出会い系業者などが、片っ端に送る広告メールなんです」




大輔は腕組み、満足げにうなづきつつ、また時に「へぇ」「ほぉ」っと田中の講釈に関心しながら、話に聞き入っている。一方の田中は話し始めると、この家を訪れたばかりとは打って変わって、得意げな笑みを浮かべ、ランランと輝いた瞳で流暢に語り続ける。




「それ以外にも、プログラムソフトを使用して、自動的にメールアドレスを派生させて、総ナメに送ることもあります。1クリックサギというのもありまして、このメールの末尾にありがちな、サイトアドレスをクリックするのは非常に危険なんです」




息をつくことなく解説し続ける田中。花子は脇のボストンバッグの持ち手をぎゅっと握り締めて田中の言葉を聞いている。




「以前は、もっと広告めいたスパムメールが多かったんですが、


最近は、より受け手をひっかけやすくするために、あたかも知人のようなフリをしたり、間違いメールのフリをしたりなど、会話仕立てのものも多く含むものが数多く出回るようになりました。この数年ですごい変わりようですよ。スパムメールも日々進化しているんです」




まさに得意満面な顔で「どうよ」といった風な田中。

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