第29話
そうこうして大輔がもたついている間にも、いつにない素早さで、花子が亜美の両足に靴をはかせ、そうして自らも靴をはき、今今もう荷物片手に家を出て行こうとする。花子が玄関のドアノブを回そうとした時だった。
ドア口のチャイムが鳴る。
そのチャイムの音を聞いた途端に大輔の顔が一気に安堵にゆるむ。
*****
「田中君です」
と大輔の言葉。大輔の脇に立つ一人の青年が会釈した。
「あ、ども」
ここはリビング、花子の目の前に見知らぬメガネ青年が気恥ずかしそうに立っている。不審そうな顔でボストンバックを右脇に抱え、ソファーにたたずむ花子。
亜美は、冷蔵庫のプリンを片手に、ヨソッっちょの部屋に追い出されている。
田中は大輔に促されるままに、花子のソファー直角する長い方のソファーに座り、軽く首をすくめるよう会釈する。
「社の新人で、今、IT部門を担当してくれてる青年だ。わざわざ、この休日に来てもらいました」
そう言うと、大輔は田中に片手で謝る。
「悪かったな! いきなり呼び出して」
「いえ、大丈夫っす。特に用事もなかったですし、丁度ヒマしてました」
大輔は田中と二人だけで軽くあいさつを交わすと、再び花子に向き直る。
「田中君は、新人ながらもパソコンの名手なんだ。インターネットの知識も抜群! さ! 田中君、証言して」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます